八ヶ岳・蓼科・霧ケ峰の麓に広がる高原盆地に、350年の歴史をもつ酒蔵があります。全国的にその名が知られている日本酒「真澄」を造る宮坂醸造です。
伝統産業である日本酒造りは、その特性上、業務の自動化が難しく今もなお手作業による業務で、多くの時間と身体的な負荷が避けられない課題があります。
今回は、「身体的な作業の負担軽減、効率化」を目指しマッスルスーツを導入した宮坂醸造を訪ね、醸造現場が抱える課題や、マッスルスーツがもたらす効果と期待について伺いました。
▼ご利用中のマッスルスーツ:ソフトフィットSMサイズ
自動化・機械化できない作業でこそ効果を発揮 宮坂醸造が語る「伝統産業ゆえの課題と苦労」【宮坂醸造】
醸造現場の過酷さと悩み
「業務を終えた1日は、動けなくなります」
そう語るのは、富士見蔵にて勤務する製造部の淺木宏覚さん。
普段私たちが嗜む日本酒の洗礼された味わいには、どのような造り手の苦労があるのでしょうか。まずは淺木さんに、醸造現場のリアルと悩みについてお聞きしました。
――まずは1日の業務の流れを教えてください。
日本酒作りは冬の時期が忙しく、とにかく朝が早いです。うちはまだ遅い方ですが、7時30分の始業開始で、早いところだと5時やそれ以前とか。
日本酒造りは酵母が糖分を食べてアルコールに変えることでできあがります。でも原料の米には糖分がない。そこで米のデンプンを糖分に変える役割の麴を造る必要があります。この麴を造る工程と酒を造る酵母を育てる工程があり、私は麴の担当をしています。
酵母を育てる工程ではまず酒母というスターターをつくり、その後3段仕込みと言って、4日に分けて3回の仕込み作業が発生します。
――日本酒造りには様々な工程があるんですね。一連の作業の中で、もっとも身体の負担を感じる瞬間はいつでしょうか。
麴造りは常に中腰ですので、その作業がきついですね。すべて手作業で麴の元となる米をほぐすため、結構な力仕事です。時間的には30分ですが、一つの床に約300kg分の米を広げます。
日本酒造りは重労働
――麴造り以外にも身体への負荷がかかる作業はあるのでしょうか。
仕込タンクに蒸米や麴などの原料を入れた後の櫂入れ(かいいれ)という混ぜる作業です。姿勢が悪いし、材料である米が結構硬いので、押し混ぜひっぱるときの腰への負荷が怖い。1つのタンクにつき10分、大きいタンクはのべ30分~1時間以上混ぜるため、すさまじく大変な作業です。
こだわりのお酒「突釃(つきこし)」造りは自動化できない
宮坂醸造では、特別な技術を用いた数量限定の日本酒「突釃(つきこし)」も販売されています。澄んだ味わいと微発泡が特徴の突釃は、日本酒の元となる醪(もろみ)から、いかに酒のにごりを出さずに採るかが重要です。斗瓶(とびん)に採った日本酒も、採りたてはにごっていますが数日たつとにごりが沈下します。このにごりを再び舞い上がらせないように、人の手で優しくゆっくりと扱う必要があります。
――突釃の作業も、身体への負荷がかかるのでしょうか。
突釃の作業が始まると、18kgの酒の入った斗瓶を、最低30本は慎重に運びます。そのため、1日の終わりには疲れて動けなくなることも…。
基本的に重い作業と姿勢の悪い作業がメインですので、1日を通して腰への負荷は相当かかっていますね。
――重いものを混ぜる、あるいは持つ作業はほかにも発生しますか。
突釃の専用タンクに、1本30kgある笊籬(いかき)とよばれるステンレス製のつつを計4本持ち上げ入れます。多いときには3つのタンクに4本ずつ12本を持ち上げタンクの中へ下ろす。タンクから笊籬を抜く際には、もろみが笊籬についているため、さらに重くなっています。
マッスルスーツとの出会いと導入までの流れ
――マッスルスーツを知ったきっかけを教えてください。
私自身、腰痛持ちで普段の力仕事に不安を感じていました。病院にも定期的に通っています。ただ腰痛の原因ははっきりせず、コルセットにて対応する日々。コルセットでは痛みが軽減されることはなく、一時的な処理です。腰痛への不安で、作業がおっくうになっていました。腰への負荷を軽減するものはないかと探している中で、マッスルスーツを見つけたんです。
――導入まではスムーズに進んだのでしょうか。
最初にマッスルスーツの導入申請書を出したときには、「いらないんじゃないの?」という声はありました。腰痛は個人の悩みかつ、会社としての導入はコストになりますからね。そこで、自身で資料を作り提案したんです。
――資料の説得材料としては、何を提案されたんですか?
福利厚生です。腰痛はなかなか労災判定されにくい。それでも現場の負担をなるべく軽減するのは企業の責務ですし、こうした取り組みは企業のイメージアップにつながると思い提案しました。
――なるほど。ご自身で調べ、会社に提案するほど腰痛に苦しんでいたんですね。同じような課題感を抱いている方は、酒造りの仕事をしていると多いのでしょうか。
腰痛持ちは多いかと思いますが、声を上げて改善する方は少ないですね。というのも現場で働いているスタッフの感覚として、体にかかる負荷に対し「そういうもんだ」「しょうがない」といった当たり前の意識が浸透してしまっているんです。
意識的な側面の他にも、伝統技術を要する日本酒造りは、手作業による業務がかかせません。日本酒の出荷や配送は、機械化が進んでいるようですが、実際にお酒を作る現場ではどこまで自動化して、どこまでは手作業でやるかの線引きがあります。そうした見極めのなか、「この作業は手作業でやる」と決めて、では実際にどれだけ身体的負荷がかかるのか、それを軽減するサポート器具があるのか、という話になってくるんだと思います。
マッスルスーツの効果と今後の期待
――最初にマッスルスーツを装着した際、どう感じましたか?
一番最初に使ったときは「すごいのがきた」という感想でしたね笑
これは実際に着ないとわからない効果です。腰痛を持っている私だけでなく、周囲の人間も驚いていました。「コルセットと何が違うんだ?」と疑問に思っている方も多かったですが、装着後の動作サポート効果に、全員が効果を実感しました。
――継続して使用する中で、使っていなかった時と比べるとどのような違いを感じていますか。
腰への負担が全然違いますね。これまで休み休みに行っていた作業も持続して行えるようになり、結果時間の効率化も図れています。1日の疲れも軽減したように感じます。おっくうになっていた作業も、やる気が上がり、躊躇がなくなりましたね。
――マッスルスーツの魅力はなんでしょう。
多くのリスクを考慮された設計は本当にありがたいです。防水、軽い、せまい隙間にも入って作業ができる、製造現場にはぴったりだと思います。電動のものでは実現できないです。何より金額面でのコストパフォーマンスが、企業での導入にありがたいですよね。
――手作業が欠かせない作業が効率化されると、製造の現場にどのようなインパクトが生まれるでしょう。
醸造に対する肉体労働のイメージは否めない部分があります。しかし、マッスルスーツのようなサポート器具を積極的に導入することで、女性や年輩の方でも十分にできる仕事だと思います。年齢や性別に関係なく、継続的に伝統作業の担い手が広がるきっかけになるのではないでしょうか。中には家業で、少人数でやられている酒蔵さんもあるので、そうした方々もお手頃な値段で導入できるのはうれしいと思います。
――今後、マッスルスーツにどのような期待をされていますか。淺木さんのチャレンジもお聞かせください。
いろんなことができるかな…笑
普段の仕事以外にも、夏場は草刈りがありますし、冬場には雪かきで役立つと思います。酒造りだけでなく、体を動かす他の作業にも生かせそうです。これまで億劫になっていた作業全般に躊躇なくチャレンジでき、業務の幅が広がると考えています!
今回、実際に醸造現場に伺い淺木さんの作業風景を見学させていただき、日本酒という繊細な味の背景には、造り手たちのこだわりと苦労が隠れていることが分かりました。
職人による手作業が多い伝統産業では、どうしても人による繊細な作業がかかせません。ただ、淺木さんのような改善に向かう主体的な行動が、業務効率や労力の軽減につながるのかもしれません。
「私は腰痛をきっかけにマッスルスーツに出会いましたが、身体の不調はいつ起こるかわかりません。身体への負荷が積み重なる前に、より多くの方が使う用になればいいな、と思っています。」